Webとライティングの学習帳|2月のグリズリー

webサイト制作についての勉強を備忘録的に書いています。サイトやデザインに関する書評なども掲載

まだまだ文学の強さを信じる

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池澤夏樹の世界文学ワンダーランド
というのがNHKで今日放映します。

毎週月曜日;午後10時25分から(再放送は午前)

(概要)
21世紀、異文化が交錯する混迷の時代。世界は進むべき方向を模索している。作家・池澤夏樹さんは、文学にこそ時代を読み解くヒントがあると考え、独自な視点で新たな「世界文学全集」を編集した。池澤さんの編集方針は、20世紀後半に書かれた秀作を、欧米の作品にかたよらずに選ぶことだった。今回番組で取り上げる7作品も5つの言語で書かれ、世界各地を舞台にしている。旧植民地出身の女性作家ジーン・リース母国アメリカを痛烈に風刺した作品を書いたアメリカ人作家ジョン・アップダイクなど、書き手もさまざま。池澤さんが魅了された文学作品の朗読を交えながら、私たちが生きる今と文学を語りつくす。


・世界文学と言うものは読み辛いという印象を持つ人が多いと思いますが(昔は自分もそうでした)一度慣れてしまうと日本という表象を離れた異文化を味わうことが出来る。いわゆる「ここではないどこかへ」という読書の真髄のような経験が存分に味わえます。

特に池澤さんの世界文学全集は自分が世界文学というもの、よりいっそうの幅広い読書をしてみようと思い立った契機でもあり、今回のNHKの「知るを楽しむ」のシリーズの中でも非常に良い試みだと思います。(実際、放送第一回の「文学」についての話はリビングで一々頷いてました。)

NHK、GJ!

今のところ、このシリーズの中で読んでいるのが
「オンザロード」(J・ケルアック)
「鉄の時代」(クッツェー
の2冊だけですが、25歳までに必ずすべての巻数を読もうという計画を立てています。一冊一冊が本当に書物のオーラを存分に感じさせる作品群です。

特に、『鉄の時代』は今年読んだ本の中でも〜今まで読んだ本の中でも〜トップクラスの衝撃度でした。


この作品は「アパルトヘイト」が背景のアフリカを舞台にした小説で、主人公が知性溢れる老女で白人というのがこの小説の素晴らしい点でした。「悲劇」を迫害する側と迫害された側のどちらかで書く小説は多いけれど、そのどちらでもない迫害される側(黒人)に共感を寄せ、迫害するもの(白人)を嫌悪する白人という図式は新鮮でした。
彼女はどちらの側からも嫌われる。それは人間に備わった「知性」というものの存在を信じ、「アパルトヘイト」なんてものは絶対におかしいと考えているから。けれど、それを暴力で解決しようとする黒人も諌めなければならないという二重のジレンマに陥っている。
「非暴力」の素晴らしさを彼女は知っている。
けれど、彼女には特別な権力も無ければ、人脈も無い、家族はこのおかしな国から脱出させ独り身、しかも病気を持っていて、かつては美しかったであろう容姿も衰え、男性に守ってもらうということも出来ない。
すべてを奪われた老女はけれど、「知性」は持っている。
その「知性」で冷酷な現実をどこまでも見据える老女の世界観をこの小説は構築している。確かに「アパルトヘイト」は廃止された。けれど、その種子のようなものはまだ世界に拡散されている(ように思う。)
だから、現代の「世界文学」を見ることは自分と日本、日本と世界という大きな視点で物事を見る上で重要な指針になると僕は信じています。


〜この文が凄い!〜


「ファーカイルを信頼できないゆえに、私は彼を信頼しなければならない。魂にとって居心地の良くない時代に、私はその魂を目覚めさせておこうとしているのよ。孤児に、貧者に、餓えた者に施しをするのは簡単。辛辣な心の人にする施しをするのは難しいわ。でもファーカイルにする施しほど難しいものは無いのよ。(中略)彼の許しが無いままに私は慈愛無く与え、愛無く仕える。不毛な土壌に降り注ぐ雨よ」(『鉄の時代』)


〜放送予定はこんな感じ〜


第1回 世界文学はおもしろい 10月5日
第2回 恋はサスペンス−『マイトレイ』 10月12日
第3回 名作を裏返す−『サルガッソーの広い海』 10月19日
第4回 野蛮の幸せ−『フライデーあるいは太平洋の冥界』 10月26日
第5回 戦争は文学を生む−『戦争の悲しみ』 11月2日
第6回 アメリカを相対化する−『老いぼれグリンゴ』 11月9日
第7回 アメリカ化する世界−『クーデタ』 11月16日
第8回 さまよえる良心−『アメリカの鳥』 11月23日

(以下作品解説〜長いけれどとりあえず載せておきます〜)

『マイトレイ』(1933)は、ルーマニアの作家・宗教学者ミルチャ・エリアーデが、自らの体験をもとに書いた恋愛小説。主人公はアランという23歳のルーマニア人の青年と、マイトレイという16歳のインド人の少女。異なった文化を背負った男女の恋愛が描かれている。この作品の魅力は、官能と精神が絶妙のバランスで描かれているところだと池澤さんは言う。インドを舞台に若き男女が文化を越えて結ばれようとするラブストーリー『マイトレイ』の魅力に迫る。



『サルガッソーの広い海』(1966)は、作家ジーン・リースが76歳のときに完成させた作品。リースは、カリブ海に連なる西インド諸島の一つ、ドミニカ島の生まれ。当時は、イギリスの植民地だった。リースは、植民地生まれであることで差別され、苦労続きの人生を送った。『サルガッソーの広い海』はイギリス文学の傑作『ジェイン・エア』に登場する脇役、植民地生まれの女性を主人公にした物語。いわば、『ジェイン・エア』を裏返した小説だ。アイデア技法が鮮やかに決まった傑作を池澤さんが読み解く。



『フライデーあるいは太平洋の冥界(めいかい)』(1967)は、フランスの作家ミシェル・トゥルニエが、ダニエル・デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』(1719)を下敷きに書いた作品。トゥルニエ版では「野蛮人」フライデーの登場以降、デフォー版と全く別の展開を見せる。「野蛮」というものに、ネガティブな価値しか見出さなかったデフォーの時代と違い、トゥルニエが作品を書いた20世紀半ばには、それまで「野蛮」とよばれてきたものが、実は独自の世界観と知恵を持った文化だと明らかになった。その思想がこの作品にも影響を与えたのだ。



『戦争の悲しみ』(1991)は、北ベトナム人民軍の兵士としてベトナム戦争を戦った作者バオ・ニンによって書かれた。これまで、ベトナム戦争に関する知識や情報は、その多くがアメリカ側および南ベトナムベトナム共和国)政府側のものだった。しかし今や、北ベトナムの人があの戦争をどう見ていたかを『戦争の悲しみ』で知ることができる。小説の主人公キエンは、かつてベトナム戦争を戦い、40歳になった今、ハノイで作家になっている。そのため、この小説は戦争に関する小説であると同時に、主人公が戦争に関する小説を書くという過程を体験しつつある自分を語る小説となっている。



『老いぼれグリンゴ』(1985)は、「メキシコ革命」を背景にした一種の歴史小説。物語は、革命の初期、一人の年老いたアメリカ人「グリンゴ」が国境の川を越えてやってくるところから始まる。「グリンゴ」とはアメリカ人男性を指す蔑称だが、時に愛情も含むという微妙な言葉。近代化しすぎて迷路に迷い込んだアメリカに絶望し、川の南のメキシコに人間的なるものを求めやってきた老いぼれグリンゴ。作者のカルロス・フエンテスがアメリカに対する批判を込めて書いた作品だ。



『クーデタ』(1978)は、今年1月に亡くなったジョン・アップダイクの作品。戦後アメリカを代表する作家の一人だ。これといった特徴をもたない「普通のアメリカ人」を主人公に、『走れウサギ』(1960)に始まる「ウサギ四部作」や『カップルズ』(1968)など、アメリカを舞台に多くの小説を書いた。今回取り上げる『クーデタ』の舞台は、アフリカにある架空の国「クシュ」。しかし実は、この作品もまたアメリカを書いた小説だと池澤さんはいう。つまり、アメリカの外にいったん出て、そこに設定した「クシュ」という国を透かして見えるアメリカの像を描くといのがアップダイクの執筆意図だったのだ。アメリカの女性作家メアリー・マッカーシー



『アメリカの鳥』(1971)。主人公ピーターは、鳥好きの少年。この小説は、ピーターが、渡り鳥のようにアメリカから海を越えてヨーロッパへと渡っていく話であり、主人公が現実のなかで人生や社会についてさまざまに考え、悩み、時には傷ついたりしながら、次第に成長していく「教養小説」だ。主人公ピーターと池澤さんは同じ年。共に1945年の生まれだ。そのため、時代の空気も、世界的な事件も、その背景も、共有する部分がとても多いという。この作品を「まぎれもない傑作」と語る池澤さんが、その魅力を語る。